「広告も通販もしない」というイメージ
ゴヤールは、広告を出さず、通販もしないメゾンとして、よく語られる。この記事では、公式サイトを読み直して、そのイメージを確かめてみる。公式サイトの確認日は、2026年10月11日である。
広告:エドモンの時代には、あった
1885年に事業を継いだエドモン・ゴヤールは、広告を導入した。ベル・エポックのパリでは、著名なイラストレーターによる広告も出していた。1891年6月24日付のレターヘッドには、英国王室、ロシア帝国、米国の紋章が記されており、各国の宮廷や大統領の公式納入業者になっていたとされる。
犬の外套まで
エドモンの時代には、犬用の品も手がけていた。コートやウェア、ゴーグル、首輪、リードなどが紹介されている。2008年には、本店の向かいの352番地に、犬猫用品の専門店「ル・シック・デュ・シアン」を開いた。

今はどうか
今、ゴヤールが大規模な広告キャンペーンを行っているという情報は、今回の調査では確認できなかった。「広告を出さない」と言われるのは、現代のラグジュアリーブランドと比べたときの印象、と受け止めるのが、確かな言い方だろう。ハリウッド・リポーター誌は、ロデオ・ドライブの旗艦店についての記事で、ゴヤールは広告を行わず、あらゆる形のeコマースも行わないと、公式サイトに書かれていたと伝えた。
通販:変わりつつあるのか
公式サイトの「オンラインで購入可能」
日本の公式サイトのメニューには、「オンラインで購入可能」「オンライン取扱い商品」の項目がある。2026年10月11日に確認したページでは、名前やイニシャルを入れられる商品を中心に、118点が並んでいた。アカウントを作成すると、限定のセレクションを見られるとも書かれている。
通常の商品は
広告の代わりに語られる物語
「Luggage of Fame」という映画
「Luggage of Fame」という、顧客との関係を称える映画を紹介するページがある。ゴヤールは1853年から、特別注文を全て顧客リストに記録してきた。そこには、ゴヤールとともに旅をした著名人の名前が残っている。
マリリン・モンロー(1950年代)
ハリウッドのスターのために、帽子箱と、それに合う複数のサイズのスーツケースからなる、モダンなセットを製作した。
ウィンザー公爵夫妻
1939年に、初めてゴヤールを注文した。公爵夫人は青と黄色、公爵は赤と黄色という、それぞれのトレードカラーで仕上げられている。
アーサー・コナン・ドイル(1925年)
『シャーロック・ホームズ』の作者は、世界を旅しながら快適に書けるよう、特別な注文をした。エドモンが製作したのは、折りたたみのテーブル、本棚、タイプライター、書類や原稿の収納を備え、そのまま実用的な書斎机になる「ライティングトランク」だった。
商品の写真を並べるのではなく、顧客の旅と注文の記録を語る。これも、広告の一つの形と読むことができるが、少なくとも、商品を並べる広告とは、違う姿をしている。ここは、編集部の見方である。
店頭を大切にする理由
店頭で売ることを大切にする理由について、メゾン自身が公式に説明した資料は、確認できていない。旅の道具を、持ち主に合わせて仕立てるというメゾンの出発点を考えると、店頭で向き合い、印や色を決める過程その物が、商品の一部になっているのではないか。
顧客カードという記録
顧客の注文記録として使われたインデックスカードもある。1939年のウィンザー公爵夫妻のカード、1972年に開かれ、2019年に閉じられたカール・ラガーフェルドのカードなどが、例として挙げられている。一人一人の注文を、記録として積み重ねてきたことが分かる。

「広告も通販もしない」は、歴史を見るかぎり、「いつも、そうだった」わけではない。今の姿を、「慎重に、限られた形で」と読むのが、一番実態に近いのかもしれない。


