19世紀半ばのパリ、ガス灯と馬車が行き交う通りの絵
SINCE 1853

ゴヤールの創業者は?──マルタンからゴヤールへ

ゴヤールの「創業者」を、一人に決めるのは難しい。工房を受け継いだ人々を、公式サイトの歴史ページからたどる。

文 Shiori Kinugasa | 公開 2026.10.15 | 更新 2026.10.23 | 読了 4分 イメージ画像(AI生成):19世紀半ばのサントノレ通りを想像した絵
名前を掲げた人は、一人。
けれど工房は、いくつもの手を経て受け継がれた。

「創業者」は誰か

ゴヤールの「創業者」を、一人に決めるのは難しい。公式サイトは「1853年創業」と書きながら、歴史の本文は、1792年のピエール=フランソワ・マルタンから語っている。名前を掲げたのはフランソワ・ゴヤールだが、工房は、いくつもの手を経て受け継がれた。

ピエール=フランソワ・マルタン(1792)

1792年、パリで、荷造り用の木箱づくりと梱包を専門にする会社を設立した。ベリー公爵夫人の御用達になったとされる。1834年に、ヌーヴ・デ・キャプシーヌ通り4番地から、サントノレ通り347番地に移転した。番地は1856年の変更で233番地となり、今も同じ場所にある。

ルイ=アンリ・モレル

後継者がいなかったマルタンは、1841年、後見していたポリーヌ・ムタに、メゾンを譲った。ポリーヌは、1840年に、従業員のルイ=アンリ・モレルと結婚しており、モレルがメゾンを受け継いだ。モレルは1845年に、17歳の見習いを雇う。それが、フランソワ・ゴヤールだった。

年配の職人と見習いが、トランクの枠に木の板をはめている手元
イメージ画像(AI生成):師から見習いへ、技が受け継がれる場面のイメージ

フランソワ・ゴヤール(1828〜1890)

フランソワ・ゴヤールは、モレルと、その前の世代の師のもとで、修業を重ねた。1852年にモレルが急逝し、フランソワが跡を継ぐ。1853年に、店の看板がモレルからゴヤールへ掛け替えられ、以後32年間、メゾンを率いた。1885年4月1日、長男エドモンに事業を譲る。

梯子に上がって、店の看板を塗り替えている職人の絵
イメージ画像(AI生成):看板が掛け替えられる場面のイメージ

エドモン・ゴヤール

エドモンは、広告の導入、万国博覧会への参加、モンテカルロ、ビアリッツ、ボルドーへの出店、ニューヨークとロンドンへの事務所の設置などを進めた。自動車用品の共同開発や、犬用の品も手がけている。1892年には、ゴヤールディンを生み出し、1900年のパリ万国博覧会では、銅メダルを受けた。

1925年には、『シャーロック・ホームズ』の作者アーサー・コナン・ドイルから、特別注文を受けている。世界を旅しながら快適に執筆できるよう求められ、折りたたみのテーブルや本棚、タイプライターの収納を備えた「ライティングトランク」を製作した。

その後のゴヤール

1936 ヴァンドーム協会

1936年、ロベール・ゴヤールが、シャルル・リッツ、ルイ・ブシュロンらとともに、ヴァンドーム協会の創設に加わった。フランスのラグジュアリー産業の発展に関わった。

1998 シニョル氏の時代

1974年、ジャン=ミシェル・シニョル氏は、パリの骨董店で、ゴヤールのトランクに出会った。そこから、収集への情熱が始まった。1998年、シニョル氏がゴヤールを引き継ぎ、サントノレ通りの伝統とノウハウを復活させた。ヨーロッパ、アメリカ、アジアに、新しい工房とブティックを開いた。

今の工房

ゴヤールのトランクは、今も、南フランスのカルカソンヌにあるメゾンの工房で作られている。専門の職人が数週間かけて、一つ一つ厳密に製作し、各トランクには、製造番号と、製作した職人のイニシャルが記される。創業から現在まで、中心的な素材は木材だ。ただし、木の種類は、公式サイトには書かれていない。

工房は、170年以上にわたって、何世代もの職人が磨いてきた技術を受け継いでいる。

年表で見る

  • 1792年:ピエール=フランソワ・マルタンが、パリで荷造り・梱包の会社を設立
  • 1841年:ポリーヌ・ムタに譲られ、モレルが受け継ぐ
  • 1845年:17歳のフランソワ・ゴヤールが見習いになる
  • 1853年:看板がモレルからゴヤールに
  • 1885年:エドモン・ゴヤールが事業を継ぐ
  • 1892年:ゴヤールディンが生まれる
  • 1998年:ジャン=ミシェル・シニョル氏が引き継ぐ

「創業者」を一人に決められないのは、この工房が、世代をまたいで受け継がれてきたものだからだ。マルタン、モレル、フランソワ、エドモン。それぞれの手が、トランクの一つ一つに、重なっている。

要点

POINTS
  • 「創業者」を一人に決めるのは難しい。1792年のマルタンから、モレル、フランソワ・ゴヤール、エドモンへと、工房は受け継がれた。
  • 看板がモレルからゴヤールに掛け替えられたのは、1853年である。
  • 1998年にジャン=ミシェル・シニョル氏が引き継いだ。トランクは、今も南フランスのカルカソンヌの工房で作られている。
この記事を書いた人 Shiori Kinugasa
参考資料:Goyard 公式サイト「歴史」 https://www.goyard.com/ja_jp/goyard-history-jp Wikipedia(英語版)「Goyard」 https://en.wikipedia.org/wiki/Goyard Goyard 公式サイト「Luggage of Fame」 https://www.goyard.com/ja_jp/luggage-of-fame-jp Goyard 公式サイト「トランク作りの美学」 https://www.goyard.com/ja_jp/the-art-of-trunk-making-ja-jp (公式サイトの確認日:2026年10月11日)

CONTINUE READING