夕暮れのパリの通りに面した、トランクを飾る静かな店先
SINCE 1853

ゴヤールは本当に、広告も通販もしないのか

「広告も通販もしないメゾン」と言われるゴヤール。公式サイトを読み直して、そのイメージを確かめる。

文 Shiori Kinugasa | 公開 2026.10.14 | 更新 2026.10.23 | 読了 4分 イメージ画像(AI生成):パリの店先のイメージ(実在の店舗ではありません)
広告も通販もしない。
そのイメージは、どこまで本当なのか。

「広告も通販もしない」というイメージ

ゴヤールは、広告を出さず、通販もしないメゾンとして、よく語られる。この記事では、公式サイトを読み直して、そのイメージを確かめてみる。公式サイトの確認日は、2026年10月11日である。

広告:エドモンの時代には、あった

1885年に事業を継いだエドモン・ゴヤールは、広告を導入した。ベル・エポックのパリでは、著名なイラストレーターによる広告も出していた。1891年6月24日付のレターヘッドには、英国王室、ロシア帝国、米国の紋章が記されており、各国の宮廷や大統領の公式納入業者になっていたとされる。

犬の外套まで

エドモンの時代には、犬用の品も手がけていた。コートやウェア、ゴーグル、首輪、リードなどが紹介されている。2008年には、本店の向かいの352番地に、犬猫用品の専門店「ル・シック・デュ・シアン」を開いた。

旅行用の外套を着た犬が、トランクの横に立っている絵
イメージ画像(AI生成):ベル・エポックの犬用品のイメージ

今はどうか

今、ゴヤールが大規模な広告キャンペーンを行っているという情報は、今回の調査では確認できなかった。「広告を出さない」と言われるのは、現代のラグジュアリーブランドと比べたときの印象、と受け止めるのが、確かな言い方だろう。ハリウッド・リポーター誌は、ロデオ・ドライブの旗艦店についての記事で、ゴヤールは広告を行わず、あらゆる形のeコマースも行わないと、公式サイトに書かれていたと伝えた。

通販:変わりつつあるのか

公式サイトの「オンラインで購入可能」

日本の公式サイトのメニューには、「オンラインで購入可能」「オンライン取扱い商品」の項目がある。2026年10月11日に確認したページでは、名前やイニシャルを入れられる商品を中心に、118点が並んでいた。アカウントを作成すると、限定のセレクションを見られるとも書かれている。

通常の商品は

広告の代わりに語られる物語

「Luggage of Fame」という映画

「Luggage of Fame」という、顧客との関係を称える映画を紹介するページがある。ゴヤールは1853年から、特別注文を全て顧客リストに記録してきた。そこには、ゴヤールとともに旅をした著名人の名前が残っている。

マリリン・モンロー(1950年代)

ハリウッドのスターのために、帽子箱と、それに合う複数のサイズのスーツケースからなる、モダンなセットを製作した。

ウィンザー公爵夫妻

1939年に、初めてゴヤールを注文した。公爵夫人は青と黄色、公爵は赤と黄色という、それぞれのトレードカラーで仕上げられている。

アーサー・コナン・ドイル(1925年)

『シャーロック・ホームズ』の作者は、世界を旅しながら快適に書けるよう、特別な注文をした。エドモンが製作したのは、折りたたみのテーブル、本棚、タイプライター、書類や原稿の収納を備え、そのまま実用的な書斎机になる「ライティングトランク」だった。

商品の写真を並べるのではなく、顧客の旅と注文の記録を語る。これも、広告の一つの形と読むことができるが、少なくとも、商品を並べる広告とは、違う姿をしている。ここは、編集部の見方である。

店頭を大切にする理由

店頭で売ることを大切にする理由について、メゾン自身が公式に説明した資料は、確認できていない。旅の道具を、持ち主に合わせて仕立てるというメゾンの出発点を考えると、店頭で向き合い、印や色を決める過程その物が、商品の一部になっているのではないか。

顧客カードという記録

顧客の注文記録として使われたインデックスカードもある。1939年のウィンザー公爵夫妻のカード、1972年に開かれ、2019年に閉じられたカール・ラガーフェルドのカードなどが、例として挙げられている。一人一人の注文を、記録として積み重ねてきたことが分かる。

古い木製の引き出しに収められた、手書きのインデックスカード
イメージ画像(AI生成):顧客の注文記録を収めたカードのイメージ

「広告も通販もしない」は、歴史を見るかぎり、「いつも、そうだった」わけではない。今の姿を、「慎重に、限られた形で」と読むのが、一番実態に近いのかもしれない。

要点

POINTS
  • 「広告も通販もしない」は、いつの時代もそうだったわけではない。エドモンの時代には、広告を導入していた。
  • 現在の大規模な広告キャンペーンは、今回の調査では確認できなかった。公式サイトには、オンラインで購入できる商品もある(2026年10月11日確認)。
  • 店頭を大切にする理由を、メゾン自身が説明した資料は、確認できていない。
この記事を書いた人 Shiori Kinugasa
参考資料:Goyard 公式サイト「歴史」 https://www.goyard.com/ja_jp/goyard-history-jp Goyard 公式サイト「オンラインで購入可能」 https://www.goyard.com/ja_jp/available-online.html Goyard 公式サイト「オンラインでパーソナライズ可能な製品」 https://www.goyard.com/ja_jp/online-personalisation.html The Hollywood Reporter「Goyard's Rodeo Drive flagship open」 https://www.hollywoodreporter.com/lifestyle/style/goyards-rodeo-drive-flagship-open-1030997/ Goyard 公式サイト「Luggage of Fame」 https://www.goyard.com/ja_jp/luggage-of-fame-jp Wikipedia(英語版)「Goyard」(コナン・ドイルの「ライティングトランク」) https://en.wikipedia.org/wiki/Goyard (公式サイトの確認日:2026年10月11日)

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