柄の名前と、ゆらい
「ゴヤールディン」は、ゴヤールを象徴するキャンバスの名前だ。点を重ねた杉綾(シェブロン)の柄は、遠くから見ると、アルファベットの「Y」が並んでいるようにも見える。なぜ、この柄なのか。その由来を、たどってみる。
川で薪を運んだ人々
ゴヤール家の先祖は、ブルゴーニュ地方のクラムシーの出身だ。男たちは、モルヴァンの森で切った薪を筏に組み、川を下ってパリまで運ぶ「川の仲間たち(コンパニオン・ド・リヴィエール)」の仕事をしていた。

作業着の布「プータングリス」
川の仲間たちは、「ビヨード」と呼ばれる作業着を着ていた。その布が、「プータングリス」という、伝統的な生地である。リネンとコットンを混ぜ、コーティングを施したものだ。ゴヤールディンという名前は、この生地に由来する。

1892 エドモンのキャンバス
1892年、エドモン・ゴヤールが、この家族の伝統を生かして、ゴヤールディンを生み出した。当時のトランクメーカーが使っていたのは、無地の麻の素材だった。そこからの大きな技術革新だった。歴史のページには、パリのトランクメーカーとして、初めて社名をキャンバスに入れた、という記述もある。
点は丸太、杉綾は川で絡み合う木材。
家族の仕事の記憶が、そのまま柄になった。
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点と杉綾
重ねられた無数の点は、筏に組まれた丸太を思わせる。杉綾の模様は、川の水路で木材が絡み合うさまを表している。
なぜ「Y」に見えるのか
歴史のページは、このモチーフを、Yの字の連なりとして紹介している。Yは、ゴヤール(Goyard)の名前のなかにある文字だ。ただ、キャンバスについてのページには、「Y」という言葉は出てこない。点と杉綾が、結果として、Yの形の連なりに見える。そう受け止めるのが、一番確かだろう。
素材と作り方
素材は、リネンとコットンをベースにしたキャンバスに、コーティングを施したもの。しなやかで丈夫、耐水性にも優れる。製法は、コーティングした生地に、フレームを使ったプリント技法で3色を重ね、色を定着させる。こうして生まれる繊細な凹凸が、独特の表情になり、年月とともに風合いが増す。
麻(ヘンプ)を含むと紹介する記事も多いが、公式サイトのキャンバスのページが挙げているのは、リネンとコットンである。2010年にフランスで出た書籍は、麻、亜麻、綿の3種類の植物繊維を使うと書いている。詳しい工程は、公式サイトには書かれていない。
経年変化と、お手入れ
ゴヤールディンは、使うほどに表情が変わる素材だ。角やプリーツなど、擦れやすい部分が、少しずつ色味を変えることがあるが、これは古色(パティーヌ)による、自然な経年変化だ。
お手入れの注意は、次のとおり。杉綾の模様がすり減るのを防ぐため、強くこすったり、スポンジを使ったりしない。柔らかく、糸くずの出ない布で軽く拭き、内側のほこりは、柔らかいブラシで取る。湿気や、長時間の強い光と熱は避ける。洗濯機での洗浄や、市販の洗剤・ケア用品も使わない。
保管のときは、フェルトのケースに入れ、内側に薄紙を入れて形を保つ。プラスチックの袋は使わない。長く使わないときは、暗くて乾燥した場所に置く。傷みや汚れで迷ったときは、ゴヤールの販売カウンターや、顧客サービスに相談するよう、案内されている。
そして、今のゴヤールディン
一度途絶え、よみがえる
ゴヤールディンは、第二次世界大戦のあとに、生産が止まった。1998年、ジャン=ミシェル・シニョル氏がゴヤールを引き継いだときに、この素材を復活させようと考えた。伝統的な黒に加えて、様々な色が展開されるようになり、定番の色の他、期間限定のエディションもある。
色の展開について、2002年に、伝統的な黒に加えて12色が導入されたとされる。公式サイトでは、この年号を確認できていないので、参考情報として挙げておく。
柄の由来を知ると、手に取る鞄の見え方が変わる。点の一つ一つを、筏に組まれた丸太だと思って見ると、あの柄は、とても静かな物語をまとっている。


