二つの記号
赤・白・青のタブ
トム ブラウンの服には、赤、白、青の縞のグログラン(畝のある織りのリボン)が付く。ブランドの記号として、広く知られている。全ての商品に、この縞のリボンが入る。
公式サイトのブランド紹介には、このリボンについての説明はない。NPR(アメリカの公共ラジオ)の記事は、このタブを、ロッカーのタブにヒントを得たものと説明している。同じ記事の写真の説明には、本人が、大学のスポーツのリボン(バーシティ・リボン)に着想を得たと述べている、とあり、本文とは表現が揃っていない。子どもの頃、7人兄弟の全員がスポーツをしていたことに由来する、という説明も、記者によるものである。
アメリカの国旗を表している、という説明は、今回、確認できた範囲では、本人の発言としては、見つからなかった。服飾の媒体には、赤・白・青を「アメリカの国旗の色」と書く物があるが、これは、色についての観察であって、本人の意図の説明ではない。
袖の4本線
もう一つが、袖などに入る、4本の線である。公式サイトでは、「4-BAR」という言葉が、商品名として使われているが、デザインの由来についての説明は、見当たらなかった。一方、アディダスとの裁判では、トム ブラウン側が、4本線は、アメリカの大学のアスリートが着たバーシティ・セーターやレターマン・ジャケットに着想を得たと、主張した。

4本線の来歴
3本から、4本へ
4本線の始まりについて、NPRの記事は、次のように伝えている。アディダスは2006年、まだ小さなブランドだったトム ブラウンに連絡し、3本の横線を使うのをやめるよう求めた。トム ブラウンは、翌年に、4本目の線を足すことに同意した。別の資料は、2008年に、4本線の「シグネチャー」を発表したと書き、更に別の資料は、2009年から、商品に現れたと書いている。
年については、資料によって、2007年から2009年まで、幅がある。ここでは、「2000年代の後半に、4本線が現れた」と書いておく。
グログランとは
グログランは、横方向に細い畝のある、しっかりとした織りのリボンや生地のことだ。帽子の帯や、服の縁取りにも使われる。トム ブラウンでは、赤・白・青の縞の入ったグログランが、タブやループとして、服の内側や外側に付く。
なぜ、4本なのか
NPRの記事は、4本線が、ジャケットやトップスの左の袖と、スウェットパンツの左の脚に入ることを伝えている。4本という数は、3本線をやめるよう求められたあと、4本目を足す形で決まった。それ以上の意図は、今回確認できた範囲では、見つからなかった。
アディダスとの裁判
2021年 提訴
アディダスは、2021年6月、4本線の使い方が、自社の「3本線」の商標を侵害するとして、トム ブラウンを、ニューヨークの連邦地方裁判所に訴えた。求めた損害賠償は、約800万ドルとされる。

2023年 陪審の評決
2023年1月12日、8人の陪審は、トム ブラウンが、アディダスの商標を、侵害も希釈もしていないと、評決した。約1週間の審理で、評議は、数時間で終わったと伝えられている。
その後
その後、第二巡回区の連邦控訴裁判所が、この判断を支持した。2024年11月22日には、英国の高等法院が、トム ブラウンの4本線は、アディダスの商標を侵害せず、消費者を誤認させないと判断した。The Fashion Law の年表には、2026年9月28日に、アディダスが連邦最高裁に、審理を求める申立てをしたとも書かれている。
ここで言えるのは、裁判の経緯と判断の結果である。ストライプという単純な記号が、ブランドにとってどれほど大きな意味をもつかを、この争いはよく示している。
記号の読み方
- 記号はブランドの名刺になる:袖の4本線やタブがあれば、遠くからでもそのブランドと分かる
- 意味は断片的にしか語られていない:着想は語られていても、色や本数の意味その物は、公式に説明されていない。そのぶん、見る人が自由に読める余地が残る
- 単純な記号ほど守る必要がある:ストライプのような単純な意匠は、他のブランドと重なりやすい。裁判はそのことをはっきり見せた
記号の由来を知ろうとすると、分からないことが多く残る。それでも、その「分からなさ」ごと、ブランドの魅力になっているのかもしれない。


