原点の一着
5着のスーツ
トム ブラウンのブランドは、2001年頃、ニューヨークのウエスト・ヴィレッジの、予約制の小さな店で、5着のスーツから始まった。公式の年表には2003年、WWD の記事には2002年(アパートで始めた)という記述もあり、年号は揃っていないが、始まりが、スーツだったことは、はっきりしている。
短く、細い
ブランドの突破口は、スーツの再解釈、つまり、丈とプロポーションを小さくし、体に近く仕立てたことだとされる。その象徴が、グレーのスーツである。トム ブラウンは、伝統的なプロポーションに疑問を投げかけ、現代の「ユニフォーム」という考えに挑んできたデザイナーとして知られている。

当時の評論家たちは、戸惑い、冷ややかに見る人もいた、と伝える資料がある。
灰色の意味
アメリカの「灰色のフランネルのスーツ」
ここからは、編集部の読み取りも含む。灰色のフランネルのスーツは、アメリカの会社員の制服のような存在として、語られてきた。1950年代には、「灰色のフランネルのスーツ」という言葉が、会社の画一性の象徴にもなった。

トム ブラウンは、この、いわば「ありふれた制服」を、題材に選んだ。そして、丈を詰め、細くした。見慣れた物を、少しずらして、新しい形にする。それが、このスーツの考え方だと読める。
ブルックス ブラザーズの仕事
2006年、ブルックス ブラザーズは、トム ブラウンに、小さな専門のコレクション「ブラック・フリース」の制作を依頼した。伝統的な、肩の自然な、3つボタンのグレーのスーツは、彼の仕事を読む鍵の一つとされる。
ブラック・フリースの時代
「ブラック・フリース」は、2007年9月から、30店舗で展開された。この協業は、2015年に終わった。
伝統的なアメリカのブランドの服を、トム ブラウンの感性で、作り直す。その仕事を通じて、「灰色のフランネルのスーツ」という、アメリカの定番が、ブランドの文法に、深く根づいていったと考えられる。
2012 「トム グレー」という実験
2012年には、1年限定のカプセルライン「トム グレー」を発表した。「グレー」を、名前に掲げたラインである。詳しい中身は、今回の調査では確認できなかった。
本人の言葉
なぜ、灰色なのか
WWD のインタビュー(2013年頃)で、トム ブラウン本人は、グレーのスーツを出発点にした理由を、こう語っていると伝えられている。スーツから逃げている男のために、ジーンズとTシャツの男と同じくらい、かっこいいスーツを作りたかった。そのために、クラシックなグレーのスーツを取り上げて、プロポーションを変えた。
灰色という色その物を選んだ理由を、直接説明した箇所は、今回、見つからなかった。ただし、本人は、このスーツを、時代を超えるものにしたかった、と話している。流行を追うつもりはなく、数年で考え直すようなものにはしたくなかった。今の突飛なコレクションも、全て、このグレーのスーツから始まる、という。
短い丈のパンツについても、本人は、見る人に「なぜ、こうなっているのか」と思わせるためだと語る。グレーのスーツは、あまりにクラシックな発想なので、ほとんど理解できないように見せる必要があった、とも述べている。丈を詰めたのは、その驚きのための方法だった。
着るときの視点
「小さく見せる」のではない
このスーツは、小さく見せるための服ではなく、一つの「考え方」を、体に載せる服だ。編集部の考えを書く。初めての一着を選ぶなら、まず、試着をして、肩の位置、袖と丈のバランス、パンツの長さを、自分の目で、確かめたい。


